はじめに:巨頭の協業発表。しかし「現場の現実」はそんなに甘くない
2026年5月、富士通と日本IBMという医療ITの2大巨頭が、医療向け「ソブリンクラウド基盤」の構築とAI活用における協業を発表しました。
ニュースリリースには、「国内でのデータ主権を確保しつつ、データ連携やAI活用を実現する」という、いかにも未来的な言葉が並んでいます。
サイト運営者<br>プロアキこんにちは、メド・プロキュア代表のプロアキです。
メーカー側で17年、この手の「バラ色の新構想」を売る側にいた私の目から見ると、このニュースは素直に喜べるものではありません。現場の泥臭い現実(データ移行の地獄やコスト問題)を無視した、懸案てんこ盛りの構想に見えるからです。
本記事では、このニュースに隠された「メーカーのポジショントーク(理想)」を解体し、地域の中小病院やクリニックがシステムの「言い値」や「新しい罠」に嵌まらないための、超現実的な防衛戦略を解説します。


医療調達の「本質」を見極めます。大手医療ITメーカーでの提案営業と、大手医療機関でのシステム統括(部長・事務長)の両最前線を経験。ベンダーの「足し算(過剰提案)」を剥ぎ取り、貴院に本当に必要な機能と「素(す)」の適正価格を導き出すセカンドオピニオンです。
第1章:「データ連携・移行が簡単になる」という大いなる錯覚(嘘)


ニュースでは「複数の医療機関を横断したデータ連携」が謳われていますが、現場の皆様ならお分かりの通り、これは口で言うほど簡単ではありません。
カルテ移行は「スマホの機種変」にはならない
「同じクラウド基盤に乗れば、富士通からIBMへ、あるいは他メーカーへ簡単に乗り換えられるようになる」……これはメーカーがよく語る理想論です。
しかし現実は、各病院が独自にカスタマイズした「ローカルルール」や、ぐちゃぐちゃに登録された「独自マスター(薬品名や処置名)」の壁が立ちはだかります。
器(クラウド)を統一したところで、中身のデータ構造(HL7 FHIR等の標準化)を各クリニックが自力で整理しない限り、データ移行の血みどろの苦労は今までと1ミリも変わりません。
「ソブリンクラウド」という免罪符
データ主権を守る「ソブリンクラウド(国内完結型の高セキュリティクラウド)」という響きは素晴らしいですが、これも裏を返せば「高度なセキュリティを維持するために、莫大なインフラコストがかかる」ということです。
メーカーは「安全です」と言いますが、その高額なインフラ維持費は、最終的に「利用料」という形で医療機関(クリニック)に転嫁される構造になっています。
第2章:プロが懸念する「3つの未解決問題(懸案てんこ盛り)」


この協業が中小病院やクリニックに降りてくるまでに、メーカー側が解決(あるいは隠蔽)している3つの重大な懸案事項があります。
① 「ベンダーロックイン 2.0」の誕生
これまで「院内サーバー(オンプレミス)だから他社に乗り換えられない」という物理的なロックインがありました。
今回、それがクラウドになることで解放されるように見えますが、実際は「富士通・IBMが構築した巨大なクラウドエコシステム(経済圏)から抜け出せなくなる」という『新しいロックイン(囲い込み)』が始まるだけです。プラットフォームを握られたら、結局は値上げに抵抗できなくなります。
② AIは「おまけ」ではなく「高額オプション」になる
ニュースでは「AIによる医療文書の作成支援」や「DPCコーディングの自動化」がアピールされています。確かに便利ですが、メーカーがこれを無料で提供するわけがありません。
「クラウド基本料」に加えて、「AIアシスタント利用料」「文書生成API連携費用」といった名目で、結局はオンプレミス時代と同等か、それ以上の月額固定費(サブスクリプション地獄)を要求される未来が目に見えています。
③ サイバー攻撃の「責任の所在」が曖昧
もしこの巨大なソブリンクラウドに接続するためのVPN装置や、クリニック内のPCがランサムウェアに感染した場合、「それはクリニック側のネットワーク管理の責任です」とメーカーに切り捨てられるリスクは依然として残っています。
第3章:振り回されないための「引き算の調達戦略」
では、巨大メーカーが作り出す「新しいクラウド経済圏」に対して、中小規模のクリニックはどう立ち回るべきでしょうか。
1. 電子カルテの「飛びつき」は厳禁
富士通やIBMのような巨大システムがクラウド化の最適解を出すまで、まだ数年のカオスが続きます。
2. 「受付・会計」を先にクラウド化し、独立させる
カルテ本体(コア)をいじるのが危険な今、真っ先にやるべきは周辺業務(受付や会計)の独立とクラウド化です。
高額なレセコン一体型レジを買うのではなく、「スマレジ」のような独立したクラウドPOSレジを導入してください。
会計システムをカルテメーカーの支配下から切り離しておくことで、将来カルテを乗り換える際も、影響を最小限(コストも最小限)に抑えることができます。これが「引き算のDX」です。
結論:メーカーの「理想」を解体し、貴院の「現実」を守る


富士通と日本IBMの協業は、間違いなく医療ITの歴史的な一歩です。
しかし、ニュースリリースに書かれている「データ連携」や「AIの恩恵」が、何の苦労もなく、安価にクリニックに降ってくることは絶対にありません。
そこには必ず、データ移行の泥沼、高額な利用料の罠、新しい形のベンダーロックインが潜んでいます。
メーカーの営業マンが持ってくる美しいパンフレットと、「クラウド化しないと時代遅れになりますよ」という脅し文句。それに騙されず、自院にとって本当に必要なIT投資だけを見極める力が、今ほど求められている時代はありません。
もし、今お手元にシステム更新の見積書があるなら、判を押す前に一度立ち止まってください。
私、プロアキがその見積もりの裏に隠された「業者の本音(嘘)」を解体し、本当に適正な価格と構成へと導きます。

